「学校裏から入る!

近くまで言ったらバイクを止めるぞ!!」



古びた学校が見え、

手塚の声と共に全員がハンドルを強く握った…




亜久津の背中越しに見た学校は夜だからなのか…

それとも古い所為か、いつも以上に不気味に思えて…

自分達が今から何を相手にするのか…

考えるだけで身の内から悪寒がした…



「全員止まれ!

…今から作戦の大まかな説明をしておく。

これを実際に行えるとは限らないが、

皆聞いてくれ。」



手塚の掛け声でバイクを止め、バイクから降りると

全員説明に耳を傾けた



「ここからは相手も武器を使ってくる、

まずは全員何らかの武器を持つ事だ…

嫌でもそれを使う事になるだろう、

自分の持ちやすいモノを持て。」


「そして、これが校内の地図だ。

竜崎先生が地下の船までの地図を送ってくれた…

ここには相手の監視配置、人数も記されている」


「道はなるべく最短距離の道を行く事にした…

相手とは確実に交戦になるだろうが…

それはどの道を通っても一緒だ。

とりあえず、一刻も早く船に着く事を優先して動け。


では、校舎に入ってからの事を説明する。

まず、入ってからすぐの階段を下り、

B1の奥にある階段をもう一度下りる。

船がある所にはB2のエレベーターを使わなくては降りれないからな、

地下に居る敵は先生がどうにかしてくれるらしい…

上手くいけばそのまま脱出だ」


「……その間に向かってくる敵はどうする…?」


「足や腕などを撃つか攻撃して、

簡単に追い掛けて来たり攻撃したり出来ないようにする。

……しかし、基本は逃げる事に専念しろ。

俺達は使い慣れているわけじゃないからな…」


「他に質問はあるか…?

…ないようだな…ではこれから校内に入る。

今、入り口に二人警備が居るが

二手に分かれて無線機、及び武器の確保をしてくれ」



全員頷くと手塚組と跡部組で二手に分かれ、

両側から気付かれぬよう静かに近付くと

それぞれ林の中に引き込み気絶させ、

無線機と持っていたライフルを取っておく



「やったか…?」


「あぁ、上手くいった」



ドアを少し開けて中を覗き、

人がいないのを確認すると忍び足で全員中に入る



「なるべく音を起てずに階段まで行く…着いて来い」



手塚の合図で小走りに階段へ向かう

道の曲がり角で一旦止まり、様子を伺いながら

階段へ進んでいく…

 



その様子を…小型カメラがゆっくりと動き、映していた…

 




一つ目の下へ降りる階段を見つけ

下りていく途中で、跡部が手塚を引き止めた



「…おい、手塚」


「なんだ…」


「おかしくねぇか…?

入口以外の一階に誰も警備が居ないっつーのは…」


「……ああ、解っている…」



二人で顔を見合わせ、跡部が確信したように頷く



「……全員…武器を持って警戒しろ」



一言そう言うだけで伝わったのか…

空気が張り詰める…

…武器を構え、下へ静かに進む…


廊下が見え、手塚と跡部は壁にそれぞれ寄ると両側から廊下の奥を覗き込む



「誰も…いない…?

………手塚…」


「どうした…?」


「どうやら…俺達は当たり前の事を

忘れていたみたいだぜ…?」



廊下に下り、跡部が銃を天井の角に向ける…

それが指している方向を見ると小さなカメラがこちらを見ている…



「…カメラ…か…」


「ああ…。俺達は相当バカにされているか…

奴等の術中にはまったみたいだな。

多分、上にはもう逃げられねぇな。

後は下へ降りるか、それとも…」


「……ここで殺されるか…。



……、千石、亜久津」



「えっ?あ…はい…?」



「この道を左に行くんだ…1番奥に階段がある。

そこを降りてエレベーターへ向かい、

先に下へ行っててほしい」


「!?手塚部長達はどうするんですかっ」


「足止めをする為に残る…

だがすぐに追い付く…

…千石、亜久津、頼めるか…」


「うん、大丈夫だよ。

僕等が絶対ちゃんを守るから」


「……でも皆…」


「いいから早く行けよ」


「宍戸…」


「お前の足じゃ遅すぎるし、すぐ追い着いちまうからな」


「しーしーどぉー?バスの時今回だけって言ったよねー?」


「…さ…さっさと行けって…(汗」


「宍戸、待ってるからね☆(にっこり」


「………あ…ああ…」


「……………待ってるから…

皆と一緒に絶対来てよ…」


「……ああ、心配すんな…先行ってろ」


「絶対…だからね?」



不安げな言葉に全員頷くと

達と反対方向…廊下の右側を見据える…


と同時に廊下の奥から微かに音が響いてきた…



[…タタ…バタバタ…]



その音は徐々にこちらへ近付く



「敵さんがお出ましって所ですね…」

 

 



[バタバタバタバタバタッ!!]

 

 




っ早く行け!!」


「っ!!」



手塚達に背を向け達は走る…

後ろからは銃声や足音が聞こえる…


勿論、自分達が向かっている方向からも足音が聞こえ

何人もの軍服姿を見たが

それは全て自分の前を走っている二人が

撃つなり殴るなりして道を切り開いている



二人の背中に…は自分の力の無さを痛感して唇を噛んだ




「…ちゃん、大丈夫だよ」


「…キ…ヨ……」


「大丈夫…皆すぐ来るからさ☆」



の横に下がってきた千石は

いつもの優しい笑顔で言う。


は安心したように微笑むと、また前を向き


  

「うん」



と、一言答えた





廊下…と言うより永遠と続く迷路のようで、

見せてもらった地図を見ながらひたすら走る


「………おい」


「どうしたのあっくん?」



目だけをこちらに向けて話しかけてきた亜久津に

は地図から目を上げる



「変だって気付かねぇのかよ」


「………皆が…追ってこない事…?」



一瞬不安げな表情をしたを見て

すぐに、しかし何かを躊躇して千石が弁解をする



「―――敵が…だよ。

いくら皆が抑えてくれていたからと言っても

数人ぐらいは追って来てもおかしくない筈だって事。

それに、俺達が向かっている方向から

全然人が来なくなった…事に対して、亜久津は言ってるんだよ。」


「そういえば…。

向こうはこっちの動きを把握してる筈なのに……」


「………………」


「…あっくん……?どうしたの?

さっきから黙ってるけど……」



こちらを一度振り向いてから、

妙にピリピリとした雰囲気を出て押し黙っている亜久津に

は心配そうに声をかける

 



「………テメェが一番解ってんだろ…千石」

 



「………え…?」

 




突然足を止めた亜久津に

も慌てて足を止めた。


亜久津の視線の先に居る千石を見ると……


何か、違和感を感じた

 

 

 

 

 

 

 



「……あ……れ……?」

 



 

 

 

 








違和感…


ここ数日で見慣れてしまったモノが

キヨからは無くなっている…

 




「キ…ヨ……

 


首の…爆弾は…?」











そう、見当たらないのだ、

皆に付いている筈の首の爆弾が。

学校へ入る時は付いていた筈の爆弾が…今は無い。



「もしかしてキヨ……外し方が解ったの!?」



の言葉に千石は苦笑いした…


その笑顔に…ただ、嫌な予感がした




ちゃん…それは、本気で言ってる?」


「…本気…だよ?

だって…だってそうじゃなきゃっ――」



――そうじゃなきゃ……

 





「俺が裏切り者って事になるから?」 



苦笑いのまま、千石は言った。

そして戸惑いと困惑の入り混じる

首を横に振った…。

それにも首を横に振る



「待って…待ってよキヨ…

違う…よね?

そんな事…ないよね…?」


「…ちゃん。

ちゃんが今考えてること、間違ってないよ。

俺は…
裏切り者だよ」


千石はに向けて言い切る。

決して、嘘ではないと教えるように…



「そんな…う…そ…でしょ?

だって全然そんな素振り!!」


「そりゃあ…ちゃんには絶対にバレたくなかったからね。

少なくとも、ちゃんが居る場では…

怪しい行動はなに一つとってない筈だよ。」


「でもっ…!!」


「――ね、何でこんなに皆が銃とか

そんな強力な武器が当たっているかちゃんは知ってる?」



の言葉を遮り、千石は話し始める



「いつもなら“はずれ”の方が多いらしいけど、

今回は第一回目だからって

なるべく早く“実験”の結果が見たいから

“はずれ”より“当たり”を増やしたんだってさ。


それと、この首の爆弾。

いつもは音声とか全部向こうに筒抜けだったらしいけど、

今回は武器の方にお金をつぎ込んだから

盗聴とか、そんな事をしないで……


代わりに実験として“スパイ”を入れる事にしたんだって。」


「スパ…イ……」



千石の言葉を震えた声でが繰り返す…

それを気にしない素振りで

千石はまた続けた



「前回、頭の切れる奴が居たらしくってね…

そいつがこの首輪を外したらしいんだ。

さらにそいつは脱出方法さえ考えていたらしくてさ…

なるべく正気な人を数人連れて島を脱出したらしいよ。」


「…それ…で…その人達…は…?」


「勿論、皆見付かって殺された。

それでも、政府にとったら予定外の事だったみたいで…

首の爆弾が外され、

更に島から逃げられたんじゃ…政府の面目丸つぶれ。

逃げる奴が居るだろう事は想定していたみたいだけど

首の爆弾を外されるとは思わなかったみたい。」


「で…も、でも、もしスパイであるキヨが死んだら…

何にも…意味がないんじゃ…」


「それが無いように、俺は初めっから防弾チョッキを着せられて

探知機と銃を持たされて…

尚且つ俺の精神が壊れないように薬まで持たされた。

それでも、もし俺が死んだら…

多分、今度は他の誰かが俺の代わりを

やらされるんだと思う。」


「そん…な……」



今にも泣きそうな

千石は、ただ悲しげに微笑む…



「でも、これだけは解っていてほしいんだ…

 




俺は、生き残りたいから裏切ったわけじゃない」

 



「どういう…事…?」


「…それは――」



千石が何かを言いかけた所で

背後から数人の足音が耳に入る。



「っこの話は後!!早く走って!!

エレベーターはすぐそこだからっ」



千石は二人を押し、見えて来たエレベーターに向かって走る

 



[…タバタバタバタバタッ!!]

 




後ろから足音が近付く

エレベーターの元まで来ると

がエレベーターのボタンを何度も押すが、動かない…



「っなんで!?

エレベーターが動かない!!」


ちゃんッ退いて!!」



が退くと、エレベーターの横にある壁の蓋を開ける。

するとそこには9個のボタンが設置されていた。


千石は迷わずパスワードを素早く押し、下へ行くボタンを押す…

エレベーターはパスワードを確認した後、

最上階からゆっくりと下へ降りてきた



「キヨ…どうして……」


 


「…ちゃん、さっきの続き…

 

 


こういう時に、君を助ける事が出来ると思ったからだよ…」

 




すぐそこまで足音が迫る



[バタバタバタバタッ]





「っあと一階!!」



エレベーターが階につくと同時に

ライフル銃を持った数人の軍服姿が

道の角から現れ、走りながらこちらに銃口を向ける



千石は開いたエレベーターにと亜久津を無理やり押し入れる。


――強く押された為に二人共壁にもたれ掛かるように倒れて

すぐ、
エレベーターの前に居る千石を見上げた…


しかし休む間もなく千石はB2へ向かうボタンを押す



「ッ!?早く入らないとっ…」


「いいんだよ…俺は…」


「そんなっ…良くないよ!!待ってキヨっ――」



が手を伸ばす先で、

ドアがゆっくりと、閉まり始める…



「キヨ!!」

 

 

 

 

 

 

 



「……二人の為とはいえ、


裏切って、皆を危険な目に遭わせた事には違わないからさ…

 

 

 

 

 

 





………ごめんね」



あの時の様に、二人に向けて悲しげに笑う…




と同時にエレベーターのドアが閉まり、

二人だけを乗せたエレベーターが下へと動き始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ごめんね…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



ありがとう…」