MIDI by Litty









 

 

 

 

 

 





「……元気ないみたいだけど…

大丈夫…?ちゃん…」


「……キヨ………うん…大丈夫…

ここじゃ寒いから…家、上がって…?」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あの時、俺が気づいていれば良かったんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、ダメダメだよね…。

あっくんの事…怒らせてばっかりなんだぁ〜…

ついに本日、怒鳴られちゃいましたー☆

あははっ……はは…は……どうして、こうなっちゃうんだろ…私。」


ちゃん…」


「実はね…キヨ、知ってる?

初めて会った日から、頑張って話しかけてきたけど…

あっくん、日に日に私を避けるようになってきてるんだよ?

絶対にね、私の顔を見てくれないの…。

絶対に、私と距離をとって歩くの…。

絶対に触れさせてくれないの、

触れてもすぐに振り払われるのッ…。

……それに今日だって…今日だって…

……あっくんが喧嘩、してたから…

怪我してほしく…なくて……止めに入ったら

怒鳴られて、もう近寄るなって言われて……

――あはははッ流石にしつこいよね!私みたいのに付き纏われたら!」


「そんな事…そんな事ないよ!

ちゃんはこんなに…こんなに辛くなるほど悩むくらい、

亜久津の事を好きじゃないか!!」


「ッそんなのあっくんが私を好きじゃなかったら意味ない!!

あっくんの傍に居る事が出来ないんだったら意味なんて無い!!」


「っ――!?」


「……ぁ、ゴメン…ごめん、キヨ…

キヨは…私の為に言ってくれたのに…ごめん……。」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時…俺が気づいていれば…



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


俺が…気づいてあげていれば…














 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんは………





亜久津……は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その…本当にゴメンね…キヨ…

せっかく家まで来てくれたのに……

…そうだっテレビ!テレビ見よう!!

ね?こんな私の話よりきっと楽し……」


「…………?

ちゃん…?」



 

 

 

 

 

 

テレビを付けた彼女は、


食い入るようにテレビ画面を見つめていた…。



 

 

俺は視線を彼女からテレビへと移した…


テレビでは、男が包丁を片手に女へと迫っている…。


恐怖で歪む女とは対照的に、光悦の笑みで近寄る男…


これは、恐らく…いつもの刑事ドラマ…。


両者の会話から、男が一方的に女に好意を持っていて


女が手に入らないのを理由に、殺そうとしているようだ…。


こういうモノを見ていると良く思う…。


なんて理不尽な理由だと…


そしてなんて……なんて……



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ……そっか……」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、独り言のように呟かれた彼女の声に、俺は考えるのを止めた



 

 

 

テレビから元の…ちゃんへ視線を戻した時、



 

 

 

この子は本当に俺の知ってる“ちゃん”なのだろうかと、疑った…。



 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃん…?どうかし…」


「あはっ
あはははッそっか!そうなんだ!!

最初からそうすれば良かったんだよね!!」


「………ちゃん…?」


「キヨ!ありがとう!!キヨのお陰だよ!!

キヨのお陰で、私、やっとッ 
あっくんに解ってもらえる!私のキモチを!!



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時…俺の脳裏に、確かに過ぎったんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光悦の表情を浮かべる、男の姿が




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亜久津!!亜久津!!!中に居るんだろ!?」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中、携帯に掛かってきた電話



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亜久津!!亜久―――[ガチャッ]…開い…て……?

…ッ―――!!」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急かすように早まる心臓を抑えて亜久津の家へ入る



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やけに静かな室内

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亜久津の部屋の扉を、勢いのまま開けると…





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……キヨ……じゃじゃーん☆聞いて聞いて!!

私ね、あっくんと付き合うことになったの!!」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満面の笑みで振り返る、赤色に染まった電話の主と…



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ…く……つ……?」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わり果てた…彼女のコイビト


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのね、本当は電話で伝えても良かったんだけど…

ほら、キヨは私の事、いっぱい応援してくれたでしょ?

だからね、どーしても直接伝えたくって…。

けど…あっくんったら恥ずかしがり屋さんだから、すごーく逃げ回ってね?

ホント大変だったんだよー?学校行ったり、公園行ったり…

……でも、最後は家だったら良いって、言ってくれてね…?

それでやっと、キヨに電話する事ができたんだよ?」


 

 

 

 

そう、どこか嬉しそうに― 悲しそうに ―笑って言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か、彼女がそうやって喋っている間

 

 


俺の頭は嫌ってくらい冷静で、

 

 


彼女以上に赤く染まった親友を眺めながら

 

 


彼女の発する言葉の意味を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――親友が言った、言葉の意味を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 


脳内で整理していく。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、気づいて、しまった。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キヨ…?」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の想いも――


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……頼む…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親友の想いも――


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そう、全て。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…キヨ…?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんで、泣いてるの…?」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心配そうな顔で見上げる彼女に、


俺はぐしゃぐしゃの顔のまま、笑って答える



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嬉しい…から、だよ…」






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ウレシイ…?」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…嬉しい……から……」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、冷たくなった親友の前に跪くと


胸に刺さった銀色の刃物を引き抜く…



その反動で親友の口からドロリとした液体が流れた…



 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は俺の行動をただ不思議そうに眺めて、首を傾げる


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、冷たい柄を握り直した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ほん…とうに…っ嬉しいんだ……ッ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘なんかじゃない。

 

 

 

 

本当に嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

二人が、俺を選んでくれたその事実が、嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぅ…ッあ……」



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柄をつたって、生ぬるいモノが手に触れる


と、同時に、彼女の身体が徐々に寄りかかってきて…


自分のすぐ傍で、彼女の苦しげな吐息が聞こえた


 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あぁ…まだ、暖かい…――


 

 

 

 

 

 

 

 

 


彼女の柔らかな身体を支えている刃物を、


俺はゆっくり引き抜いて、床へ捨てた。

 


身を任せるまま圧し掛かってきた彼女の背中に、


俺が赤く染まった手を、すがる様に回す……と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



そっと……俺の背中をちゃんの手が撫でた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ……ョ………り……と…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


俺の耳元でかすかに、掠れた声で呟かれた言葉…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬を伝う涙と一緒に…彼女の身体も床へ落ちた…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せ…だなぁ〜…」


「……突然どうしたの?キヨ…」


「ん〜…?だから、幸せだなぁ〜って…」


「………ついに頭壊れやがったのか…」


「壊れっ…壊れてないよ!いたって正常だってば」


「キヨ…誰だって下校途中に突然言われたら、まず驚くと思うよ…

私もキヨがどうかしちゃったのかと…。」


「どうもしてないってば…(苦笑)

…いや、なんかさ…こうやって三人で一緒に帰ったり、

休日に遊んだり出来るのが当たり前の…今の日常がさ、

なんか、考えてみたら物凄く嬉しくなって…夢か幻みたいで…

いつまでも、続けばいいなぁ〜って、そう思ってたんだ」


「……………バカか。」


「バッ!?バカっていう事ないじゃんか!

俺、いま結構いい事言ったんだよ!?」


「う〜ん…でも、あっくんの言う通り、

キヨはおバカさんなのかもね〜☆」


「そんな、ちゃんまでそんな事言わなくても――」


「それはキヨが、とぉっても重要な事解ってないから言ってるんだもーん♪」


「…とっても、重要な事…?」


「そう!…イマは夢じゃないから、泡になって消えたりしないし…

勿論、幻でもないから…こうやって一緒に過ごしてる時間は嘘じゃない。

どれも、紛れも無い真実で、本物で、本当だよ☆」


「……ちゃん…」


「…ふふっ…何だか恥ずかしいね…//

 


…それにさ、キヨ――


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからも親友三人、ずっと一緒でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ね?」

 

 

「ッ――…そう、だね…っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうだ…俺達はこれからも…

 

 

 

 

 

 

……ずっと…――









 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ずっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ずっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぅ…ぁ…あっ…ああああああああああああぁぁああぁああああああぁあああああぁああああああああぁあああぁああああああああああああああああああああああああああぁあああぁああああああぁあああぁああぁ…ぁ…――ッ!!!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


――そう…いつまでも、ずっと……三人で……



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

ある所に、仲の良い男の子2人、女の子1人の三人組が居ました。

その三人はとても仲が良く、何処へ行くにも一緒でした。

三人は、いつまでも一緒にいれると、疑いませんでした。

 

 

…ところがある日、女の子が病気である事が解りました。

それを知った男の子の一人は、一生懸命、彼女を看病しました。


もう一人の男の子は、病気になっている事を、知りませんでした。

 

 

日数が経ち、その子の病気は悪化してしまいました。

しかし看病していた彼は、悪化している事に気が付きませんでした。

そしてもう一人は、その子が病気である事に気が付きました。

 

 

 

さらに数日…

看病をしていた彼に、電話がかかってきました。

 

 

 

一人目の電話は病気の悪化に気付いた彼からでした。

彼は看病をしていた彼に、病気が悪化した彼女の事を…お願いしました。

お願いをされた彼は、その訳も解らず、困惑しました。

 

 

二人目の電話は、そんな彼女からの電話でした。

電話で…彼女の病気はもう、後戻り出来ないところまできている事を、知りました。

そして、その悪化の矛先が、もう一人の親友に向けられている事も、知りました。

彼は急いで、二人の元へ向かいました。

 

 

向かった先で彼を待っていた二人の姿は、


自分が知っている二人とは、あまりにも変わってしまっていました。

 

 

特に彼女の身体は、病気が悪化し、心は、悲しみに染まっていました。

彼が来た時には手遅れだったのです。

 

彼女は、立ちすくむ彼に、声無き声で、お願いをしました。

彼は、どうすれば良いのか解らず、首を傾げ考えました。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

彼は気付いてしまいました。

 

 


――彼は…気付いてしまったのです。――


 

大切な、二人の想いに…。


 

 

大切な二人の、その―残酷な―願いに…。


 

 

 

…そして彼は、気付いてしまったその瞬間


 

 

 

 

大切な、大切な、二人の親友の為に…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の“願い”を犠牲にして、

二人の“願い”を叶えてあげる事に、決めました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――…そして彼は、一人になってしまいました。

 

 

 

彼は、一人に、なってしまいました。

 

 

 

 

一人になった彼は、自分の“願い”を叶える為に…

 

 

 

 

 

夢の中で…叶える為に…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その身の時間を…自らの手で止めてしまいました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



めでたし、めでたし…。